
【解説】トンダ・イブレアとは?トマトの香りがするシチリアのオリーブオイル
オリーブオイルの瓶に「トンダ・イブレア」と書かれているのを見たことはありませんか。シチリア島の南東部でしか育たない、少し変わった在来品種です。何が変わっているかというと、青いトマトの香りがすること。オリーブの実から搾ったはずのオイルなのに、鼻に抜けるのは完熟前のトマトやアーティチョークの匂いです。
ベリッシモではこの品種のオイルを4種類扱っています。同じ品種なのに、産地の標高や製法が違うと味わいがはっきり変わる。今回はその違いを、実際の商品を並べながらご紹介します。
トンダ・イブレアとは
トンダ・イブレア(Tonda Iblea)は、シチリア島南東部のイブレイ山地一帯で育つ在来品種です。名前の「トンダ」はイタリア語で「丸い」の意味。その名のとおり、実が大きく丸いのが特徴です。
産地はラグーサ県のキアラモンテ・グルフィ周辺と、シラクーサ県のブッケリ周辺。石灰岩と火山性の土壌が広がる、乾いた丘陵地帯です。この地域はイタリアでも有数の高品質オイルの産地として知られ、D.O.P.モンティ・イブレイという原産地呼称も設けられています。
収量は多くありません。実が大きいわりに油分が控えめで、しかも早い時期に収穫するため、1本の木から採れるオイルの量は限られます。それでもこの品種が大切に守られているのは、ほかの品種では代わりのきかない香りを持っているからです。
面白いのは、この品種が数値の上では特別優秀とはいえないことです。ポリフェノールの量や脂肪酸の組成といった分析値だけを見るなら、もっと高い数字を出す品種はいくつもあります。それでもトンダ・イブレアが評価されてきたのは、香りと味わいの調和が飛び抜けているから。データでは説明のつかないおいしさを持った品種だと言われます。
なぜ「トマトの香り」がするのか
オリーブオイルの香りは、実に含まれる揮発性の成分から生まれます。トンダ・イブレアの場合、青いトマトやトマトの葉に含まれるものと似た香気成分が多く、それが「トマトの香り」として感じられます。あわせてアーティチョーク、青い草、ときにアーモンドのような香ばしさも重なります。
この香りは、実が緑色のうちに収穫することで際立ちます。熟して黒くなるのを待てば油の量は増えますが、香りの成分は減り、辛味や苦味のもとになるポリフェノールも失われていきます。量を捨てて香りを取るのが、トンダ・イブレアの作り手たちの共通した選択です。
飲み込んだあとに喉の奥がぴりっとするのも、この品種のオイルの特徴です。初めての方は驚かれることがありますが、これはポリフェノールが豊富な証拠で、劣化や欠陥ではありません。
同じ品種、違う4本
ここからは、ベリッシモが扱うトンダ・イブレアのオイルを4本ご紹介します。同じ品種でも、畑の標高、搾油までの時間、ろ過の有無で、驚くほど印象が変わります。価格の手頃な順に並べました。
① まず1本目に:クトレラ「PRIMO D.O.P.」
トンダ・イブレアを試すなら、最初の1本にいちばんおすすめできる定番です。キアラモンテ・グルフィの自社農園で手摘みし、収穫から6時間以内に搾油。酸度0.17%以下という数字が、鮮度の高さを表しています。
グリーントマトとハーブの香り、後味のスパイシーな辛味。この品種の教科書のような味わいで、4,752円という価格も日常使いしやすい設定です。クトレラ社は1906年から続く家族経営で、2001年以降に獲得した賞は約170。2010年の『Flos Olei』では世界第1位に選ばれています。
Frantoi Cutrera PRIMO D.O.P. 500ml を見る
② 樹齢100年の畑から:オッキピンティ「パンタレイ」
ナチュラルワインの造り手として世界的に知られる、アリアンナ・オッキピンティのオイルです。ヴィットーリア郊外のキアラモンテ・グルフィにある古いオリーブ畑を、彼女自身が惚れ込んで買い取りました。植わっているのは樹齢100年を超えるトンダ・イブレア。自然栽培で育て、手摘みしたのちコールドプレスで搾ります。
黄金色を帯びた濃いグリーン。フルーティーな香りに、辛味と苦味がほどよく調和します。ろ過をしないため瓶の底に成分が沈むことがありますが、品質に問題はありません。「素材よりもそれを扱う人の行為がものを言う」という彼女の言葉が、そのまま味に出ているようなオイルです。
予約商品
Arianna Occhipinti オーリオ・パンタレイ 500ml を見る
③ 酸度0.09%の軽やかさ:チンクエコッリ
同じキアラモンテ・グルフィの、マッツァロネッロという場所にある家族経営の農園です。約30ヘクタールに5,000本のトンダ・イブレアを育て、手摘みした実を4時間以内に搾ります。実現している酸度は0.09%。エキストラバージンの基準が0.8%以下であることを考えると、桁違いの数字です。
味わいは、この4本のなかでは軽やかな部類。青りんごを思わせるフルーティーな香りが前に出て、さわやかにまとまります。トマトの香りが強すぎるオイルは苦手、という方にはこちらの方が向いているかもしれません。野菜料理や魚介との相性が特に良い一本です。
Cinque Colli チンクエコッリ 500ml を見る
④ 標高700mの山の上:テッラリーヴァ「チェルビーノ」
ここまでの3本がラグーサ県側だったのに対し、テッラリーヴァはシラクーサ県のブッケリ。標高およそ700mの山の上にある、火山性土壌の畑です。昼と夜の気温差が大きく、オリーブの木には軽い負荷がかかり続けます。この「よいストレス」が、実の中に香りの成分を濃く蓄えさせます。
収穫はすべて人の手で。そしてろ過をしないノンフィルター仕上げです。EU有機認証とI.G.P.シチリアを取得し、スローフード協会のガイド『Guida agli Extravergini 2025』では「グランデ・オリオ・スロー」に認定されました。青りんごを思わせる香りに、強い果実味と長い余韻。この4本のなかで、最も個性のはっきりした一本です。
ところで「チェルビーノ(Cherubino)」とは、天使の位のひとつ、智天使ケルビムのこと。木に登り、枝から枝へ移りながら実を摘む作業者の姿が天使のように見えるから、という説があります。もっとも生産者自身は、笑いながらこう言うそうです。あまりに旨いオイルなので、天からケルビムが持ち去りに来るのだと。
4本の違いを一覧で
| クトレラ PRIMO D.O.P. |
オッキピンティ パンタレイ |
チンクエコッリ | テッラリーヴァ チェルビーノ |
|
|---|---|---|---|---|
| 産地 | キアラモンテ グルフィ |
ヴィットーリア郊外 キアラモンテ・グルフィ |
キアラモンテグルフィ /マッツァロネッロ |
ブッケリ 標高約700m |
| 栽培 | — | 自然栽培 | — | 有機(EU認証) |
| 認証 | D.O.P. | — | — | I.G.P./コーシャ ハラル |
| ろ過 | あり | なし | あり | なし |
| 酸度 | 0.17%以下 | — | 0.09% | — |
| 味の印象 | 青いトマトと ハーブ、辛味 |
濃いグリーン 辛味と苦味の調和 |
青りんご 軽やか |
青りんご 濃厚で長い余韻 |
| 価格 | ¥4,752 | ¥5,292 | ¥7,020 | ¥8,910 |
※価格は税込。掲載時点のものです。
※テッラリーヴァとパンタレイは酸度を公表していません。冒頭でも触れたとおり、トンダ・イブレアは分析値の上では突出した品種ではないにもかかわらず、香りの調和で高く評価されてきました。数値だけでは測れない、という点もこの品種らしさかもしれません。
※D.O.P.とI.G.P.の違いについては、【解説】イタリア食材のマーク「IGP」と「DOP」とは?もあわせてご覧ください。
おいしく使うために
加熱せず、仕上げにかける
トンダ・イブレアの香りは熱で失われます。炒めものや揚げものには別のオイルを使い、こちらは料理が皿に乗ってから、食べる直前にまわしかけてください。
まずはパンで確かめる
小皿に注いでパンを浸すだけ。塩をひとつまみ加えると、香りと辛味の輪郭がはっきりします。飲み比べをするなら、この形がいちばん違いが分かります。
トマト料理との相性は格別
同じ香りの成分を持つもの同士、トマトとは驚くほどよく合います。カプレーゼ、冷製パスタ、ガスパチョの仕上げにどうぞ。
冷蔵庫には入れない
低温になると白く濁って固まります。品質に問題はありませんが、直射日光の当たらない常温の暗い場所での保管をおすすめします。
どれを選べばいいか
この品種を初めて試す方には、クトレラのPRIMO D.O.P.を。トンダ・イブレアらしさが素直に出ていて、価格も日常使いの範囲です。
つくり手の個性を味わいたい方には、オッキピンティのパンタレイ。樹齢100年の木から生まれる、自然栽培ならではの厚みがあります。
すっきりした味わいがお好みなら、チンクエコッリ。酸度0.09%という数字が示すとおり、軽やかで飲みやすい仕上がりです。
有機やノンフィルターにこだわりたい方、贈りものを探している方には、テッラリーヴァのチェルビーノ。標高700mの山でつくられる、最も個性のはっきりした一本です。
同じ品種でこれだけ違うのか、というのを味わっていただくのが、いちばん面白い楽しみ方だと思います。まずは気になった1本から。










