リヴォルノカッチュッコ

港町の暮らしを詰め込んだ一皿
リヴォルノのカッチュッコ

 

美しい港町リヴォルノ

ティレニア海に面したトスカーナの港町リヴォルノの風景
リヴォルノの港

トスカーナ州西部、ティレニア海に面した港町リヴォルノ。フィレンツェやピサからほど近いこの街は、美しい海辺の景色と、どこか気取らない開放的な雰囲気が印象的です。運河沿いに並ぶ建物や港に浮かぶ船を眺めながら歩けば、潮風とともに、ゆったりとした時間が流れているのを感じます。

海岸と運河が織りなす風景の美しさはもちろん、この街には今も人々の暮らしが息づく、“生きた港町”ならではの表情があります。あらゆる船が往来する港の風景が日常に溶け込み、市場やレストランには海の恵みがあふれています。

リヴォルノで愛される郷土料理「カッチュッコ(Cacciucco)」も、まさにそんな土地の魅力を映し出す一皿です。トマトで赤く染まった濃厚なスープに、タコやイカ、貝、白身魚など、さまざまな魚介を惜しみなく煮込んだ豪快な料理。見た目はどこかフランスのブイヤベースにも似ていますが、その背景には、港町ならではの歴史と、人々の暮らしから生まれた温かな物語が息づいています。

 

カッチュッコにまつわる、ひとつの言い伝え

リヴォルノの郷土料理カッチュッコ(魚介のトマトスープ煮込み)
リヴォルノのカッチュッコ

カッチュッコの誕生には、こんな言い伝えがあります。

ある日、海で働いていた漁師の父親を亡くした子どもたちが、食べるものを求めて港を訪れます。漁師たちはその日の収穫のうちから、子供たちに魚を少しずつ分け与えたといいます。ある者は小さな魚を、ある者はタコを、またある者は貝を…。母親は、子供たちが持ち帰った魚介をひとつの鍋に入れ、家にあったトマトやハーブとともに煮込みました。そして皿に固くなってしまったパンを敷き、その上からスープを注ぎました。そうしてできあがったのが、カッチュッコの始まりだった…と、いうのです。

もちろん、これは史実として残る記録ではなく、港町に伝わるひとつの伝説ですが、カッチュッコは確かに、市場で売れない魚や形の不ぞろいな魚介と、どこでも手に入る食材を使った、漁師たちの家庭料理としてこの街に伝わってきました。言わば、「もったいない」の精神から出来上がったレシピなのです。

 

多文化が育てたリヴォルノの味

リヴォルノの魚市場に並ぶ新鮮な魚介
リヴォルノの魚市場

リヴォルノは、トスカーナ州西部のティレニア海に面した港町。観光都市として名高いフィレンツェやピサの影に隠れがちですが、16世紀以降、この街は地中海交易の重要な拠点として発展しました。

特に、メディチ家が関税を優遇し、外国商人を積極的に受け入れる港づくりを進めてからは、ユダヤ人、ギリシャ人、アルメニア人など、さまざまな背景を持つ人々がこの地に集まりました。

カッチュッコという料理もまた、そんな多様性の中から生まれた一皿なのかもしれません。異なる人々が行き交う港町で、助け合いながら暮らしてきた人々。さまざまな魚介がひとつの皿の上で調和する姿は、どこかこの街そのものを象徴しているようです。

 

5つの”C”に込められたおいしさ

地元では、「Cacciuccoには“c”が5つあるから、最低5種類の魚介を使うべき」というユーモラスな言い伝えもあります。つまり、あらゆる旨味がごった煮のように混ざり合ってこそ、カッチュッコなのです。その名のとおり、カッチュッコにはタコやイカ、貝類、白身魚など、それぞれ異なる旨味をもつ魚介が惜しみなく使われます。トマトの酸味とともにひとつのスープへと溶け合い、複雑で奥行きのある味わいを生み出します。加えられるのは、ニンニクやセージ、唐辛子、そして少量の赤ワイン。シンプルな材料ながら、じっくりと煮込むことでそれぞれの風味が重なり合い、家庭料理とは思えないほど豊かな一皿へと仕上がります。

そして忘れてはならないのが、器の底に敷かれたトスカーナ名物の塩なしパンです。軽く焼いてニンニクをこすりつけたパンが魚介のスープをたっぷりと吸い込み、最後にはそれ自体がもうひとつのごちそうになります。

その土地の料理には、その土地ならではの歴史や暮らしが詰まっています。カッチュッコもまた、リヴォルノという港町だからこそ生まれた一皿です。ひと口味わえば、魚介の豊かな旨味とともに、リヴォルノの海や港の風景、人々の暮らしが少し見えてくるかもしれません。
もしこの街を訪れることがあれば、ぜひ本場のカッチュッコを味わいながら、海辺の景色とともにリヴォルノの魅力を感じてみてください。

 

イタリアの余韻を、食卓へ

鍋ひとつに港町の暮らしと歴史が溶け込むカッチュッコ。その豊かな味わいに心を惹かれた方は、ぜひご家庭の食卓からもイタリアの奥行きに触れてみてください。
イタリア食材ベリッシモでは、トスカーナをはじめ各地の個性と作り手の息づかいが感じられる品をご紹介しています。