【解説】パスタ・アルティジャナーレ「職人のパスタ」とは?(老舗パスタ工房ファッブリ取材)
【解説】パスタ・アルティジャナーレ「職人のパスタ」とは?(老舗パスタ工房ファッブリ取材)
乾燥パスタの製造方法
イタリアの食卓に欠かせないパスタですが、家庭やパスタ専門店で作る生パスタはさておき、ほとんどの家庭で使用される乾燥パスタにもいろんな分別があります。小麦粉の品種・精製の違い、形状の違いはラベルや見た目で分かることが多いですが、とても大事なのはぱっと見ただけでは分からない乾燥パスタの製造方法です。一般的なメーカーは工場でパスタを大量生産していますが、それと一線を画すのが「パスタ・アルティジャナーレ(職人のパスタ)」。1893年に創業し、今もそのパスタ・アルティジャナーレの生産を続けるトスカーナ州のパスタメーカー、ファッブリを訪問しました。
パスタ・アルティジャナーレ(職人のパスタ)とは?
ファッブリの創業は1893年。当時は小麦の生産からパン・パスタを生産販売する会社でしたが、やがてパスタ専業に。現在は信頼おける農家で作られた100%オーガニックの古代小麦を、信頼おける石臼使用の粉ひき場で作られた粉を使い、1950年代からの機械を使用して古き良きパスタ作りを今も継続しています。迎えてくれたのは、広報担当の若い女性・マッダレーナさん、そして先代で4代目のジョヴァンニさんも途中で合流し、ファッブリ社の歴史から、使用する小麦や粉の違い、そしてパスタ・アルティジャナーレの製造方法を話してくださいました。
ファッブリ社のパスタに使用する古代小麦、セナトーレ・カッペッリを手に
使用する小麦は全て、信頼おける農家で作られた100%オーガニックの古代小麦。カテゴリーによって、セナトーレ・カッペッリ、トゥミニア、エンマ―の3種を使い、石臼を使う昔ながらの粉ひき場で低温でゆっくりと粉をひいていきます。精製はふすまなど全てを含む全粒個粉、荒いふるいにかけた半粒粉、細かいふるいにかけた精製粉の3種類。それらを水と合わせて専用の機械で生地を作り、ブロンズ製の型を通して様々な形状のパスタを作り出します。
そして肝心なのが乾燥の行程。ファッブリでは自然乾燥だった1800年代とほぼ同じ環境、つまり38度以下の低温に保たれた乾燥庫でパスタを乾燥させています。そのために乾燥時間も長く、形状による違いはあるものの72時間~144時間かけてじっくりと乾燥させるのです。そうして出来上がったパスタは小麦本来の香り、味、栄養分を保持し、精製粉で作られたものは優しいクリーム色。そのぶん美味しいだけではなく、正しく成分バランスがとれた安全なパスタなのです。
いっぽう工場で大量生産される一般的な乾燥パスタは、近代小麦を高速・高温で粉ひきし、工場のオートメーションの中でローコスト・短時間で作られたもの。最たるものが乾燥行程で、なんと100度以上の高温で数時間で乾燥させてしまうのだとか。そのためにパスタが高温によってキツネ色となり、風味や味わいがほとんどない代わりにグルテンの量は多く、不耐症やアレルギー、セリアック病などを引き起こす原因となっています。
手前がファッブリ社のパスタ・アルティジャナーレ、後ろが工場生産のパスタ。色の違いも歴然。
工場生産パスタはイタリアでも問題視されているため、いくつかのメーカーは「イタリア産小麦だけ使用」や「伝統製法」、「低温乾燥」の文言を入れています。しかし、産地だけでなく小麦の種類や、具体的な製法、そして乾燥も温度や時間は具体的に明記されてないものがほとんどです。
ファッブリ社のパンフレットには、「小麦のたんぱく質の量や質により、茹で時間が若干変わることがあります。1950年代の機械を使っているため形が完璧でないものもあります。ラベルは手で貼っています。」と書かれています。何もかもが均一だけれども味気ない大量生産のパスタか、伝統的な製法のため「個性」はあるけれど安全で美味しいアルティジャナーレのパスタか。皆さんは、どちらを選びますか?