Angiolini アンジョリーニ

Angiolini(アンジョリーニ)

「ビーントゥバー」を極めたジョヴァンニの新しい挑戦

ピサ県の中都市・ポンテデーラは、フィレンツェから直通電車で45分。駅の南側は、イタリアを代表するスクーター・ヴェスパを生産するピアッジョ社、そして北側には町の繁華街が広がっている。アンジョリーニの直営店は2018年11年、繁華街の東端にある小さな広場にオープンした。「CIOCCOLATERIA」と書かれているけれど、知らなければ通り過ぎてしまうほど控え目な店構え。それは何となく、ジョヴァンニのそれまでのキャリアと似ているのかもしれない。

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ジョヴァンニ・アンジョリーニはポンテデーラの田舎で生まれ、中学を卒業後14歳の時にフィレンツェの老舗パスティスリ―の工房に見習いとして入り、次の製菓材料卸会社では、菓子製作のデモンストレーション担当として勤務。同社のチョコレート部門立ち上げの際、「なんだかとても面白そうだったから」と異動を希望したそうだが、その時は30年後の今の姿を予想だにしていなかっただろう。その部門が1つの会社として独立した後も、生産責任者として勤め、世界的に有名なチョコレートブランドに成長。5年後に迫った定年まで勤め続けるはずだったが、息子・アレックスの発案で「今やるか、一生やらないか」の決断を迫られることに。今まで陰の立役者だったジョヴァンニに、こうして新しいプロジェクトが生まれたのだ。

Angiolini アンジョリーニ

イタリアでも数社しかない、ビーントゥバーのチョコレートブランドであるアンジョリーニ。ビーントゥバーとは、カカオの豆からタブレットなど製品までを一貫して行うチョコレート生産者を指す。アンジョリーニでは、ヴェネズエラ、パプアニューギニア、マダガスカルの3か国で、信頼できる農学者と生産者組合からサンプルを取り寄せ、厳選したカカオの豆をフェアトレードで輸入。現地では乾燥までが行われ、そこからは豆の焙煎から製品になるまで、すべてジョヴァンニ1人の手で行われているというから驚きだ。カカオ豆は世界市場で8%しか出回っていないトリニタリオ種と、0.001%しか出回っていないと言われているクリオロ種のみ。同じ国の同じ品種でも栽培地で風味が異なるカカオを認識し使い分けられるのは、30年以上チョコレートづくりを極めてきた経験の賜物だろう。

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同じトリニタリオ種で同じ73%のダークチョコレートが、一体どこまで違うのか?マダガスカルは、この地を覆う植物の香り全てがミックスしたようにフルーティ。嫌味のない、なんとも爽やかな酸味が心地良い。一方パプアニューギニアは、誰もが想像するカカオの味がそのまま感じられる正統派。ダークチョコにありがちな、苦みや渋みをほとんど感じないのが驚きである。さらに希少なクリオロ種に至っては、この品種の独特の甘みがもはや73%のダークチョコとは思えないほど。食後は心地よい余韻のみ、もったり感が口に残らないのは、15ミクロンまで下げた精製の賜物だ(水が0、人間の舌が混じり気を感じないのは22ミクロン)。「チョコレートはワインと同じくカカオの品種の違い、そしてテロワール(栽培地の自然環境)によって異なります。だからその表現方法は無限大なのです」。この73%という数字も、ジョヴァンニが行きついた最高のバランスだと言う。

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この直営店では、まさにジョヴァンニのイスピレーションから生まれた様々なプラリネ、量り売りの板チョコ、そしてパッケージされた製品が並ぶ。組み合わせる素材はもちろんこだわりの一級品ばかり、素材同士が互いを高め合い、唯一無二の作品が完成する。ここでは新たなチョコレートを製品化するための実験場でもあり、試作しては売れ行きや評判をフィードバック。そんな細かい戦略ができるのも、ニッチな世界を追求できるのも、家族経営の小さなブランドならではの強みである。ヴィンサント、リモンチェッロ、ノービレワインを揃えるボンボンについても、「次は日本酒もあるかもしれませんよ?」と、息子のアレックスが展望を語り始めた。

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大学の法学部を卒業後、スポーツインストラクターをしていたアレックス。その分野とそこでの自身の成長に限界を感じ、自分の力が十分に発揮できる次のステージを模索した時、「目の前にこんな逸材がいるじゃないか」と父親にアンジョリーニブランドの立ち上げを提案した。今は経営者として、生産以外の業務をほぼ全て行っている。父の卓越した作品に見合う食材店やレストランへの営業が実を結び、今ではリゾート地のミシュラン星付きレストランや、イタリアを代表する名店エノテカ・ピンキオーリでも使用されているそう。店に合わせたオリジナルのブレンドを作り出せるのも小さいブランドの強みであり、コロナ禍のこの1年でも、正しいマーケティングと戦略で創業から売り上げは右肩上がりを続ける。「カカオを知り尽くした職人」と「才能ある若き経営者」という最強の父子タッグに、専業主婦だった妻のミケーラは製品包装を担当、アレックスの妻アルバは店を仕切るという、正真正銘の家族経営。新しい輸出先や直営店、コンクールや展示会出展など将来計画は多くあるが、急がず、あくまでも身の丈にあわせて着実に進みたいと言う。そして、「子供も欲しいしね」と最後に付け足したアレックス。父、息子、そして孫と長く続く、世界有数のチョコレートブランドになることは間違いなさそうだ。