
アブルッツォを掘り下げてみた
アブルッツォの歴史と今で、ご紹介した通り、アブルッツォ州はイタリアの首都・ローマがあるラツィオ州の東に隣接し、その州域は、イタリア半島を縦断するアペニン山脈の中央部からアドリア海へと広がる、母なる大地に抱かれた州です。有名な観光地も少なく、ガイドブックで紹介されることがほとんどない州ですが、手付かずの大自然と歴史の遺産物が多く残る面白さから、イタリア国内のみならずヨーロッパ中から、その魅力が再注目されています。
今回は、もう少しアブルッツォを掘り下げてみました。
その隠れた名所と伝統的なアブルッツォ郷土料理をご紹介いたします!
孤高の城・ロッカ・カラーショ

アブルッツォ州ラクィラ県 「ロッカ・カラーショ城(Il Castello di Rocca di Calascio )」。荒涼としたアペニン山脈の頂に堂々とそびえ建つ、イタリアで最も高い位置にある要塞です。1000年頃、標高1,460mのこの地に、 望楼(見張り塔)として四角形の石組積造で作られたこの城は、アブルッツォ渓谷の防衛目的のだけのもので、貴族の住居として使用された記録は残っていません。

グラン・サッソ・エ・モンティ・デッラ・ラガ国立公園(Parco Nazionale del Gran Sasso e Monti della Laga)内にあり、 カンポ・インペラトーレ高原(Campo Imperatore)が眼下に広がります。「小さなチベット」と呼ばれるのも納得の、牧歌的で壮大な360度の大パノラマは圧巻です。15世紀頃、プーリア州・フォッジャの王家が所有する羊の移牧ルートの一部だったこの地は、その統括の役割が授けられ、それを機に小さな村々が生まれ 、経済的にも発展を遂げました。何世紀にもわたり、国内の貴族たちが変わるがわる領有し、その中にはシエナのピッコロミーニ家やフィレンツェのメディチ家もありました。
圧巻の大平原と中世の香りが残るこの地は、近年、映画やテレビドラマのロケーション地として、その名を世界へと轟かせています。1985年『レディホーク(Ladyhawke)』や1986年『薔薇の名前(The Name of the Rose)』、2010年『ラストラーゲット(The American)』などが有名どころでしょう。2019年には、ナショナルジオグラフィックによって「世界で最も美しい15の城」の一つに選定されています。

ロッカ・カラーショへ続くすぐそばの小道では、八角形の教会「サンタ・マリア・デッラ・ピエタ(Santa Maria della Pietà)」が、中世から現在に至るまで、この地の平穏を見守り続けています。ピッコロミーニ家の領地に移動するためにカンポ・インペラトーレを通過しようとしていた山賊グループの攻撃からこの地を救ったマドンナに感謝するために、16世紀から17世紀にかけて地元の人々により建てられた教会です。内部では、勇敢な聖母と武装したサンミケーレの彫刻を鑑賞することができますが、現在では特別な日のみの開放となっています。
残された中世の村・サント・ステーファノ・ディ・セッサーニョ

ロッカ・カラーショから下ること少し 、人口100人ほどの小さな村「サント・ステーファノ・ディ・セッサーニョ(Santo Stefano di Sessanio)」が、国立公園内に位置しています。村全体が石や岩で覆われており、細かく入り組んだ先の見えない小道を進んでいくのは、まるで秘密基地を探検しているような気分になります。
村のメイン広場につながる門とこの村のシンボルである塔には、メディチ家の紋章が飾られており、標高1,251mのこの小さな村が、イタリアの歴史上重要な役割を担っていたことが伺えます。残念ながらこの塔は、2009年のラクィラ地震で崩壊されてしまいましたが、現在も難航しながら修復が続いています。
長い間廃墟となっていた古代の価値ある建物たちが、近年丁寧に修復され、イタリアで最も美しい村の1つ「I Borghi Piu belli D’Italia」に選出されました。ローマから車で2時間ほどのこの地は、お洒落な週末の隠れ家や夏の間の避暑地として、人気を高めています。岩の洞窟をそのまま生かしたホテルやレストランが、ひっそりと営業しています。
グラン・サッソの郷土料理

この地域の郷土料理といえば、レンズ豆の「レンティッキェ(lenticchie)」。小さな豆粒たちが小銭に見立てられ、「金運が上がる」「たくさん稼げますように」と、イタリア全土で愛され続けている伝統的な縁起物です。大晦日には、豚足や豚肉のソーセージと共に煮込んで調理されますが、普段はシンプルにスープでいただきます。岩や石の多いこの土地でも栽培でき、標高が高く夏でもひんやりとしているこの地域では、身体の芯から温めてくれるものが欠かせなかったのでしょう。

カンポ・インペラトーレの大地で育った羊のミルクから作られた「ペコリーノチーズ」も特産物の一つです。
出来立てのリコッタチーズを召し上がったことはありますか?ミルク本来の優しい甘みと、口に入れると一瞬で消えてしまうほどの柔らかさが特徴です。リコッタチーズは劣化が早く、 大量生産と流通が難しく、そもそもイタリア国内でも新鮮なものを手に入れるのは至難の業です。 古くから羊と共に生き続けてきたこの地で、その恩恵にあやからない理由はないでしょう。同じくアブルッツォ名産の蜂蜜を、贅沢にたっぷりかけていただきます。
アブルッツォへ訪れる機会がありましたら、ぜひご賞味ください。日本のスーパーで売られているリコッタチーズは、あまり食べられなくなってしまうかもしれません。
文責/アドマーニ

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