バチカン

バチカン

バチカン|[Chiacchiere! Mail Magazine 04 Marzo 2021]

「バチカン」。どのような宗教を持っていようとも、あるいは特別な信仰がなかったとしても、イタリア・ローマを訪れた際に、ここを通らずとして帰る方は、なかなかいないのではないでしょうか。美しい建築物の数々とバチカン美術館の訪問は、多くの観光客の中で「ローマでしたいこと」リストのトップに入っていることでしょう。

バチカン — 「カトリックの総本山」で「世界最小国家」
バチカン
バチカンとは、「教皇聖座(La Santa Sede)」と「バチカン市国(Stato della Città del Vaticano)」の総称を意味します。
 「教皇聖座」とは、ローマ教皇庁によって統治されるカトリック教会と東方典礼カトリック教会の中心地であることを意味しています。現在の教皇は、2013年3月13日に選出されたアルゼンチン出身のフランシスコ教皇です。
 一方、「バチカン市国」とは、「教皇聖座」に居所を提供している領域ということを意味し、1929年に独立国家となりました。イタリアの首都・ローマ市内に位置し、「世界最小の国家」の名の通り、その総面積はわずか0.44㎢。日本の皇居の半分以下です。
 つまり、宗教機関でありながら、国としての側面も持っている場所ということであり、その国民は全て聖職者です。現在の総人口は約800人で、居住権はその職に就いている間に限り与えられます。護衛にあたるスイス衛兵隊も、この数に含まれています。国民以外にも、イタリア国内から通勤してくる者もおり、勤務者の合計は約3000人。公用語はイタリア語で、公式文書作成の際はラテン語、外交用語にはフランス語が用いられています。1984年、国土全体が、UNESCOの世界文化遺産に登録されています。

「バチカンの傑作たち」
バチカン市国に入国して目の前に広がる幅240m の巨大な楕円形の広場が「サン・ピエトロ広場(Piazza San Pietro)」です。イタリアの有名建築家・ベルニーニの設計により、1656年に建設されました。合計372本の石柱の上には、140体もの聖人像が立ち並んでおり、世界中からの訪問者たちを見守っています。
サン・ピエトロ大聖堂

 「サン・ピエトロ大聖堂(Basilica di San Pietro in Vaticano)」は、世界最大級の キリスト教会です。元々は、イエス・キリストの最初の弟子「聖ペトロ」を祀る墓所であり、改築を重ね、1626年に現在の姿となりました。北側は教皇が住む「バチカン宮殿」に、南側は教皇謁見所と宝物館と隣接しています。大円蓋(クーポラ)からの光は、聖堂内に「天使の階段」を作り出し、厳かな雰囲気を演出しています。

サン・ピエトロ大聖堂

「バチカン美術館(I Musei Vatiani)」は、5万㎡の敷地に広がる約25の美術館・博物館の総称です。ミケランジェロの最高傑作「最後の審判」がある「システィーナ礼拝堂(Cappella Sistina)」は、見学コースの終わりに位置しています。

「訪れる際に知っておきたいこと」
イタリアとの入国は自由で、パスポートのチェックもありません。ガードレールの柵が並んでいるところもありますが、「広場を歩いていたら、気づかぬ内に国境を越えていた」という感覚です。式典などの際には、空港のセキュリティチェックと同じような金属探知機やX線での手荷物検査がされることもあります。
 厳格なドレスコードはありませんが、ここは宗教的な場所です。特に聖堂内に入る際には、過激な服装や露出の多い服装、肩の出るトップスとビーチサンダルは避け、その場所と訪れる巡礼者たちへ、敬意を払いましょう。
 バチカン市国へのアクセスは、メトロA線のオッタヴィアーノ(Ottaviano)駅が便利です。駅からは徒歩約15分ちょっと。バールやジェラテリアやレストラン、小さな雑貨屋さんやお洒落な衣料品店が立ち並び、のんびり歩くにはちょうど良いお散歩コースです。観光案内所では、数時間から半日で主要スポットを巡れるツアーが、50〜100ユーロ前後で販売されており、当日の購入も可能です。しかし、日本語対応のプランはほとんどなく、ガイドを希望するのであれば、日本で予約していくのが賢明でしょう。

「最近のバチカン」

2019年に公開された映画『I Due Papi (英語タイトル:The Two Popes 、日本語タイトル:2人のローマ教皇)は、2012年に当時のローマ教皇だったベネディクト16世と、翌年に教皇の座を受け継ぐことになるホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(現教皇)の間で行われた交代劇です。考えのまったく異なる2人が、世界に10億人以上の信徒を擁するカトリック教会のため、対話を通して理解しあっていく様子や、これまで隠されていたバチカン市国の裏側なども描かれており、その内容にイタリア国内でも話題となりました。
 熱心な信者が教皇の手を握り続け、最終的には振り払う形となってしまったことがニュースに取り上げられたり、スピーチを「Buonasera(ボナセーラ:こんばんは)」で始めたり、「Buona cena(ボナチェーナ:素敵な夕食を)」で締めたことがある現フランシスコ教皇は、若い世代のイタリア人たちには、親しみの持てる教皇として映っているようです。
 毎週日曜日の朝に、大勢の人がミサに参加するために集まっていたサン・ピエトロ広場は、2020年3月、新型コロナウィルスによるイタリア全土ロックダウンを余儀なくされた以降、ずっと閑散としたままです。そんな中でもミサは継続され、誰もいない広場から、生中継でイタリア国内に放送され、敬虔な信仰者たちは、その声に耳を傾け、一刻も早い終息を共に願っています。

文/アドマーニ