ヴェッキオ宮殿

トスカーナおらが村便り| Mail Magazine 07 Ottobre 2020

すっかり秋になりましたね。秋と言えば、食の秋、スポーツの秋、そして芸術の秋。芸術の町と言えば、やはりフィレンツェ。田舎住まいの今もフィレンツェには週1で足を運びますが、あれほど憧れて留学してきた町も日常風景となり、用事を済ますだけのことがほとんどになりました。しかし先日「フィレンツェ圏カード」を作ったおかげで、これからは美術鑑賞を目的にフィレンツェにわざわざ来ることも多くなりそう。このカードはフィレンツェ近郊の市町村在住者が作ることができ、たった10ユーロで作成日から1年間フィレンツェ市立博物館9施設入場+ガイド付きツアー3回が無料というお得なカード。おらが村も対象に入っているので、作成日に早速、ヴェッキオ宮殿に入ってみました。

ヴェッキオ宮殿

フィレンツェで一番どこが好き?と聞かれたら、私の答えは「ヴェッキオ宮殿」。というのも、私のイタリア好きは歴史好きから始まり今に至るので、フィレンツェならヴェッキオ宮殿、ヴェネツィアならドゥカーレ宮殿、というように、イタリア各都市がひとつの国だった時代の「政治の場」に魅かれるからです。今は博物館として多くのツーリストが訪れますが、いまだに政治の場=フィレンツェ市役所でもあり、フィレンツェ市長の部屋は「クレメンス7世の間(メディチ家2人目のローマ法王)」、市議会は「200人の間」となっているんですよ。

ヴェッキオ宮殿

実はこの日にヴェッキオ宮殿を訪れたのは、その200人の間で行われている織物の特別展が見たかったから。この織物は、トスカーナ大公・メディチ家のコジモ1世の命で1545~1553年に作られましたが、イタリア統一でフィレンツェが首都だった時代にその半分がイタリア王国の、そして現在はイタリア共和国の国有財産としてローマに保管されていました。2015年にフィレンツェ・ローマ両方で修復を終えた20枚の織物は100年以上ぶりに20枚が一堂に集まり、ミラノ・ローマ、そして昨年から元々の展示場所であったこの200人の間で公開されているのです。残念ながら4枚づつを5回に分けての展示で、私は今回3巡目の4枚しか見られませんでしたが、残り4巡目5巡目もぜひ見に行きたいと思っています。

ヴェッキオ宮殿

メインは織物展だったのですが、さっと宮殿内を一通り周ってきました。ヴェッキオ宮殿の一番の見どころである500人の間は、この日のように「子供のフェスティヴァル」で子供用の演劇が行われていたり、先月もファッションブランドのドルチェ&ガッバーナがショーを行ったり、いろいろなイベントにも使われています。ドルチェ&ガッバーナは今回のショーでフィレンツェの卓越した伝統産業職人を登用し、ショーの後も10月半ばまで、1枚目の写真のようにミケロッツォの中庭で展示会をしています。ここでは皮革・モザイク・貴石などの展示がメインでしたが

ヴェッキオ宮殿

ジッリの間では、ガラスや銀製品の展示をしていました。このジリの間は、かのドナテッロの「ホロフェルネスの首を斬るユディト 」像も。ヴェッキオ宮殿に自分のためだけに来るのは久しぶりだったこともあり、足早に通り過ぎ間にも、昔、フィレンツェに恋い焦がれていた時と同じ感動がこみ上げてきました。近年は忘れがちでしたが、フィレンツェ初来訪から数えるともう25年、人生の半分をこの地に恋い焦がれていることに。この1年はカードをフル活用して、フィレンツェと自分の歴史をふり返ることになりそうです。

ヴェッキオ宮殿


文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。https://toscanajiyujizai.com/