
【南イタリア】マテーラ観光モデルコース|世界遺産サッシを巡る旅
ブーツの形で言うと土踏まずのあたり、南イタリアはバジリカータ州東部に位置する都市・マテーラ。一度は忘れ去られたこともある悲しみの洞窟の街が、見事復活を遂げ、世界遺産と欧州文化首都に選出されるまでとなった歴史をたどりましょう。
マテーラの洞窟住居群
「旧石器時代(紀元前10千年紀)から人類が定住し始めていた」との説もあり、世界で最も古くから継続的に居住している集落の1つになる可能性があるマテーラ。街の裏側に広がるグラヴィーナ渓谷には、風雨の浸食により自然と形成された洞窟が多くあり、 そこに人が住み着いたのが始まりと言われています。
8世紀から13世紀にかけて、イスラム勢力からの迫害を逃れたキリスト教の修道僧たちがこの洞窟に身を隠し、住居や教会を構えました。石灰岩の斜面を新たに掘り、家や道路が作られ、徐々に街らしい姿に。この住居群は『サッシ(Sassi:「岩」を意味するイタリア語sassoの複数形)』と呼ばれています。15世紀から16世紀には、オスマン帝国に追われたアルバニア人やセルビア人なども移住。地中海交易の発展とともに繁栄を遂げ、 1663年にはバジリカータの州都となり、最盛期を迎えます。
しかしながら光の裏には影あり。街や人口の拡大は、皮肉にも貧富の差を生むことに。裕福な人々は新たに整備された高台にある地域に移り住み、貧しい人々のみが洞窟群に取り残され、サッシ地区は貧しさの象徴的な地域になっていったのです。1806年に州都が現在のポテンツァに移され、衰退の速度が加速していきます。
強制退去、無人の廃墟、そして大復活
当時の生活は、現在の観光名所の一つ『グロッタの家(Casa Grotta di vico Solitario)』にそのままの姿で残されています。何よりもの衝撃は、人と家畜が同じ空間に住んでいたということ。度重なる農業経済のひっ迫と人口増加の圧迫、そして行政機能を失い荒れていく街で家畜を盗難から守るためには、そうせざるを得なかったのです。 足の高いベッドの下で鶏を飼育し、小さな子どもたちは底の深いタンスをベッド代わりにして眠る。暖炉はなく、家畜から発せられる体温に身を寄せて冬の寒さを凌ぐ…。洞窟住居という特徴的な作りによる水はけや採光の悪さも相まって、一時は乳児死亡率が50%を超えていたという痛ましい事実が、その生活環境の劣悪さを物語っています。
この状況を見かねた政府は、1954年に特別法を発令し、新市街地へ住民を強制的に移住。その結果、サッシ地区は無人の廃墟と化し、政府が保有する地区となりました。
一旦は放棄されたマテーラですが、ユニークな歴史や文化的資産が見直され、1993年には『マテーラの洞窟住居と岩窟教会公園』として、ユネスコの世界文化遺産に指定されました。政府の主導により、3,000戸ほどの洞穴住居の一部は、ホテルやレストラン、小さな美術館や店舗へと改装され、観光地としての復活を遂げていきます。
また2019年には、街全体が『欧州文化首都(European Capital of Culture)』に選出され、多くのイベントが開催され、特にヨーロッパ中からの観光客で溢れ返しました。現在は、このサッシ地区を旧市街地、マテーラ市民が生活する地域を新市街地と区別して呼ばれています。
世界遺産を歩く
新市街地から旧市街地への入り口であるランフランキ宮殿前の広場が、街一番の絶景スポット!歴史ある街全体を目の当たりにし、思わず息を呑むことでしょう。太陽に照らされて岩が輝く姿、黄昏に染まる夕暮れ時、ライトアップされて暗闇の中でその存在感を訴える姿…同じ街でも時間帯によってこんなにも表情を変えるものかと驚き、そしてそれが何よりも街全体を遺産にしている理由であると理解でき、いつまでも見ていられるほどでした。
複雑に入り組んだ構造の石の街は、目的なくただ歩いているだけでも冒険気分に。偶然見つけるカフェやジェラテリアで休憩したり、隠れ家のようにひっそりと営業する石や焼き物などの伝統工芸店を覗きながらのんびり歩いても、半日以内でぐるっと街全体を一周できるくらいの大きさです。石でできた坂道と階段が続くので、必ず歩きやすい靴で!
街には多くの教会や聖堂が残りますが、オススメは巨大な岩塊をくり抜いて作られた『サンタ・マリア・デ・イドリス教会(Chiesa di Santa Maria di Idris)』。 十字架があるのでかろうじて教会と分かる、巨大な石灰岩の塊です。教会の裏側にはグラヴィーナ渓谷が広がり、整えられた岩の街と手付かずの渓谷を一つの写真に収めることができる、とてもユニークな場所です。
マテーラへのアクセスは、列車の場合はまずはローマやナポリから、プーリャ州バーリの街まで約4時間、そこから乗り換えてさらに約2時間。もしくは直行バスだと、ローマからは約6時間、ナポリからだと約4時間半。簡単には辿りつけない場所というのが、また冒険心をそそりますね。
文責/アドマーニ

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