
イタリアの「死者の日(Giorno dei Morti)」
——秋の静寂の中で思い出す、祈りと記憶の文化
1. 秋の静寂とともに訪れる、イタリアの「死者の日」
すっかり肌寒くなった朝晩に、季節の歩みの早さを感じる今日この頃。
今年の秋、皆さんはどんな時間を過ごしているでしょうか。
食の秋・読書の秋・スポーツの秋。
紅葉を目指して出かける人もいれば、国内外の旅に心を向ける人も増えてきました。
日本では11月3日の「文化の日」が秋の象徴のように訪れますが、
イタリアではこの時期に、もう少し静かで、内省的な日が続きます。
2. 諸聖人の日(11月1日)と死者の日(11月2日)
ハロウィンの華やかさが過ぎた11月1日。
イタリア全土で大切にされている祝日、
諸聖人の日(Festa degli Ognissanti) がやってきます。
そしてその翌日、11月2日――
Giorno dei Morti(死者の日)。
亡くなった人々の魂に祈りを捧げ、
家族で墓地を訪れ、食事を囲み、
ごく自然に「今ある命」について思いを向ける日です。
連休にして祖先のもとを訪れる習慣は、まるで日本のお盆のよう。
国が違っても、人が大切な人を偲ぶ時に生まれる“静かな温度”はよく似ています。
3. 中世から伝わる「死者の日」の起源
諸聖人の日の翌日に祈りを捧げる習慣は、中世ヨーロッパで形づくられました。
イタリアと関わりの深い神学者、ペトルス・ダミアニの著作『聖オディロ伝』には、
こんな不思議なエピソードが記されています。
とある修道士が、孤島の岩の隙間から“煉獄”を覗いたという。
その時、悪魔が「人間が祈ると魂が天国へ行ってしまい、我々にとって不都合だ」と
不満を漏らしていた――と。
その話を聞いたクリュニー修道院の院長オディロは、
「亡くなった全ての人のために祈る日」を定めようと決断し、
それが後に 11月2日=死者の日(万霊節) として広まっていきました。
歴史の細かい真偽はさておき、
“祈りが苦しむ人を助ける”という考えは、今の私たちにも静かに響きます。
4. イタリア各地に残る“死者の日”の郷土菓子
イタリアでは、この日限定の食べ物も数多くあります。
- ファーヴェ・デイ・モルティ(死者の空豆)
- パーネ・ディ・モルティ(死者のパン)
- そして、とりわけ有名なのがシチリアの
フルッタ・マルトラーナ(Frutta Martorana)
5. シチリアの宝石菓子「フルッタ・マルトラーナ」
シチリアで育まれた、小さな果物のかたちのお菓子
この季節、パレルモの街を歩くと、
お菓子屋さんのショーケースに色とりどりの“果物”が並びます。
レモン、ザクロ、洋梨、オレンジ…。
しかしそれらはすべて、アーモンドを使ったマジパンのお菓子。
マルトラーナ修道院に由来するこの伝統菓子は、
型に入れて形を整え、何層にも色を重ね、乾かし、
仕上げるのに数日かかるほど手間のかかるもの。
まるで宝石のような小さなお菓子です。
シチリアでは、死者の日に
このフルッタ・マルトラーナを家のあちこちに隠し、
子どもたちが宝探しのように探す習慣があります。
見つけた子どもに、大人はそっと伝えます。
「それはね、ご先祖様がくれたんだよ。」
宗教も文化も違っていても、
こうした“思いを手渡す習慣”には、どこか懐かしさを感じます。
6. 文化を知ると味わいたくなる、イタリアの秋の食材
文化を知ると、その国の食卓が近く感じられるものです。
イタリアの家庭でも、秋から冬にかけては
ポルチーニの香りがキッチンに広がり、
新物オリーブオイルの青い香りに季節の移ろいを感じます。
ベリッシモでは、
イタリアの秋と深くつながる食材を取り扱っています。
- アブルッツォ山岳地帯産・濃厚な乾燥ポルチーニ
- シチリア産アーモンド
- トスカーナ・ウンブリアの新物EVO
- 冬の煮込みに合う古代小麦パスタ
イタリアの文化を知ることが、
食卓の楽しみにそっと火を灯すこともあります。
気になった方は、ぜひ季節の食材を覗いてみてください。
7. おわりに──祈りと記憶をたどる季節に
死者の日は“静かに誰かを思う時間”。
日本のお盆に似た、この独特の落ち着いた温度に触れていると、
国は違っても、人は皆、誰かを思い出しながら生きているのだと気づきます。
もしイタリアの文化や季節の味わいに心が動いたなら、
ベリッシモの食材から、あなたの食卓にも小さな“イタリアの秋”を迎えてみませんか。
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