
スフォルツェスコ城|ミラノの歴史と芸術が息づくルネサンスの要塞
ミラノの街を歩くと、過去と現在が見事に調和していることに気づきます。
荘厳なドゥオモのすぐそばに、中世の力強さとルネサンスの華やぎを今に伝える建築――スフォルツェスコ城があります。
芸術、政治、そして人々の暮らしが交錯したこの場所には、イタリアという国の「美」と「知」がどのように育まれてきたのか、その記憶が刻まれています。
この記事では、そんなスフォルツェスコ城の歴史をたどりながら、ミラノが築いたルネサンスの精神にふれてみましょう。
スフォルツェスコ城 ― ミラノが育んだ力と美の象徴
ミラノにあるゴシック建築の最高傑作と言われる「ドゥオモ」。
そこから歩いてすぐの場所にある、最大のルネサンス建築であり、中世の堅固な要塞の佇まいを感じさせるのが今回のテーマ、スフォルツェスコ城(Castello Sforzesco)です。
入り口正面に高くそびえ立つ「フィレーテの塔」。
その中央には、4世紀にミラノの司教を務め、この地の守護聖人とされている「聖アンブロージョ」の石像が城を見守っています。
もともとは、14世紀に権威を振るい、都市国家ミラノを支配したヴィスコンティ家の居城として建造され、その後、15世紀半ばにミラノ公爵となったフランチェスコ・スフォルツァが改築と拡張を行い、重厚な石造りの城塞が完成しました。
このミラノという場所は、アルプス越えの大通商路の合流点であり、イタリア半島の玄関口でもあったことから、昔から多くの争いに巻き込まれてきた歴史があります。
同じくイタリア北部のヴェネツィア共和国やフィレンツェ共和国との対立、ナポリ王国も絡んだ継承戦争、さらにスペインやオーストリアによる支配もありました。
そうした中で、ミラノ公国の歴代君主たちは、城の改築や増築を重ねながら守りを固め、スフォルツァ城は17世紀の初めにはヨーロッパでも屈指の堅固な要塞となったのです。
18世紀にはナポレオン1世によって城の一部は破壊されもしましたが、現在残された部分だけでもその堂々たる姿は変わらず、堅牢な城塞だった当時を思い起こさせるのに十分な貫禄を持っています。
1891年から1905年にかけて、建築家ルカ・ベルトラミらによって修復され、レオナルド・ダ・ヴィンチの未完の壁画が発見されるなどし、現在では市立博物館として内部も公開されています。
ヴィスコンティ家とスフォルツァ家 ― ミラノを築いた二つの血統
スフォルツェスコ城に関わるヴィスコンティ家とスフォルツァ家とは、どんな一族だったのでしょうか。
城を最初に建造したヴィスコンティ家は、イタリアでも最も古い部類に入る高貴な一族のひとつ。
一族からローマ教皇グレゴリウス10世を輩出したことでミラノの支配権を得ると、1395年にジャン・ガレアッツォ・ヴィスコンティがミラノ公国を成立させ、15世紀までこの地を支配していました。
あのドゥオモの建設も、彼が始めたと言われています。
ヴィスコンティ家は、政治術策と芸術愛護を併せ持つルネサンス的君主を多く輩出し、ミラノを芸術と創作の都市とする礎を築いたとも言えるでしょう。
ちなみに、『山猫』や『ベニスに死す』などの映画作品で知られる映画監督ルキノ・ヴィスコンティもこの一族の流れを汲んだ人物。
また、イタリアを代表する高級自動車メーカー「アルファロメオ」のエンブレムには、創業地ミラノにまつわるヴィスコンティ家の家紋が使われています。
やがて、ヴィスコンティ家は男系の後継者に恵まれず、15世紀半ばにその支配を終えます。
しかし、ミラノの文化と誇りは次の時代へと受け継がれました。
スフォルツァ家の時代と、ルネサンスの成熟
ミラノ領は一時共和制を経たのち、ガレアッツォの孫娘ビアンカ・マリアの夫であった傭兵隊長フランチェスコ・スフォルツァがミラノ公爵に即位。
以降はスフォルツァ家がミラノを治めることになります。
彼らは学者や芸術家を宮廷に集め、ルネサンス期のパトロンとしても名を馳せました。
フランチェスコ自身は、都市の近代化や効率的な税制による財政改革、ミラノとフィレンツェの同盟構築、そしてヴェネツィアとのローディの和の締結など、政治家としても優れた手腕を発揮しました。
マキャヴェッリの『君主論』にも登場する彼は、まさにその名の通り――“何事をも成し遂げる者”「スフォルツァ(Sforza)」を体現した人物でした。
ヴィスコンティ家が創り、スフォルツァ家が完成させたこの城。
内部ではレオナルド・ダ・ヴィンチの未完成の壁画が今も残り、また、ミケランジェロ晩年の作品「ロンダニーニのピエタ」も展示されています。
中世からルネサンスへ、そして現代へ。
この城は、ミラノという都市の“文化の記憶”そのものです。
芸術とともにある街、ミラノ
スフォルツェスコ城の裏には、緑あふれるセンピオーネ公園が広がり、休日には多くの人がピクニックを楽しみます。
堅固な城の石壁のすぐそばで、家族連れや若者たちがワインを傾け、オリーブやチーズを味わいながら語り合う――
それはまるで、ルネサンスの時代から続く「芸術と日常が溶け合う」イタリアの姿を今に見るようです。
美は特別なものではなく、日々の食卓や会話の中にこそ息づく。
それがミラノの、そしてイタリアの精神なのかもしれません。
イタリアの美意識を、食卓で感じる
イタリアの街を歩いて感じるのは、芸術と暮らしの距離の近さ。
ベリッシモでは、その精神を食卓で味わえるよう、トスカーナやシチリアのオリーブオイル、伝統製法のパスタ、自然の恵みを生かした調味料を取り揃えています。
スフォルツェスコ城を思い浮かべながら、オリーブオイルをひとまわし。
ほんの少しの香りが、遠いミラノの空気とルネサンスの記憶を運んできてくれるようです。
食卓にイタリアの風を迎えたくなったら、ベリッシモのページを覗いてみてください。
文責/アドマーニ
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