パルマ:祈りと癒しの地
【第十二話】イタリア巡礼路を辿る†~魂を彩る神聖な旅~
Via Francigenaを辿る旅、今回はエミリア・ロマーニャ州の都市「パルマ」を訪れてみましょう。パルマは、「美食の都」としてご存知の方もきっと多くいらっしゃることと思います。パルミジャーノ・レッジャーノや、パルマハムと呼ばれるプロシュット、パスタ・リピエーナなど、この地の誇るグルメはぜひとも味わっておきたいものばかりです。巡礼者たちもまた、パルマの豊かな自然の中で育まれたこれらの食材を味わい、旅の疲れを癒したのではないでしょうか。そうした食文化のみにとどまらず、世界最古の大学の一つと言われるパルマ大学が1502年に創立された街、オペラ王ヴェルディが誕生した街としても有名です。歴史と音楽の文化も相まって、パルマを訪れた巡礼者にとっても単なる祈りの場所ではなく、心と体の癒しになったのではないかと想像できます。そんなパルマの街のみどころをもう少し詳しく見ていきましょう。
パルマの歴史は古く、青銅器時代にすでに村の形があったと言われています。「パルマ」という名前はラテン語由来で「円形の盾」という意味を持つのだそう。紀元前183年にローマ人の植民地となったことから始まり、エミリア街道やポー川周辺の重要ポイントとして栄えていきました。中世はフランク王国やミラノ公国などに支配されることもありましたが、パルマ大聖堂を中心として13世紀の代表的な都市の姿をよく映し出していると言われます。16世紀から19世紀には「パルマ公国」の首都となり、フランチジェナ街道沿いに位置する重要な中継地としても、巡礼者たちに宿や食料を提供する拠点にもなりました。パルマの地に残る宗教施設や教会は、彼らの精神的な支えとなり、多くの巡礼者がこの地で祈りを捧げてきたのです。
パルマ大聖堂は、12世紀に建設されたロマネスク様式の建物。外観の厳かな佇まいに圧倒されながら、内部に足を踏み入れると、巡礼者でなくとも息をのむような感動を味わうことができるでしょう。特にルネサンス期の巨匠コレッジョによる天井画「聖母被昇天」は必見です。巡礼者は、この壮麗なフレスコ画に心を打たれ、信仰を新たにしたのではないでしょうか。
大聖堂に隣接する洗礼堂もまた、見逃せないスポットの一つです。ピンク色のヴェローナ産大理石でできた八角形のこの建物は、1100年代後半にベネデット・アンテラミによって建てられました。内部には中世のフレスコ画が施され、ドームに描かれた世界の終末後の聖地エルサレム、使徒と伝道者たちの表現など圧巻です。巡礼者たちは、ここで洗礼を受け、心を清め、新たな一歩を踏み出したのでしょう。アンテラミの彫像は、ドゥオーモ広場にある司教座、教区博物館でも見ることができます。
音楽の都としてのパルマもまた有名です。それを象徴するのが、王立劇場(Teatro Regio di Parma)。1829年に建設されたこのレージョ劇場は、ミラノのスカラ座やヴェネツィアのフェニーチェ劇場、ナポリのサン・カルロ劇場ほどの知名度はないものの、イタリアのみならず世界的に知られています。現在ではホワイエや客席などを巡る30分程のコースを、ガイド付きで見学することができるようになっているので、音楽好きの方はぜひ劇場見学もしてみてください。
パルマ出身の作曲家ジュゼッペ・ヴェルディを讃える「ヴェルディ・フェスティバル」や、同じくパルマで生まれ育ったという世界的な指揮者アルトゥーロ・トスカニーニのコンサートのために、世界中から音楽ファンが集まります。パルマの音楽ファンは審美眼ありその評価は厳しいというのは音楽業界では有名なんだとか。あるテノール歌手の声の調子が良くないとあれば、ため息が聞こえ、好き嫌いをはっきりと伝えるなどといった様子は現代にも脈々と受け継がれているようです。
他にもパルマ宮(Palazzo della Pilotta)、ファルネーゼ劇場や美術館などで芸術も楽しむことができる街、パルマ。巡礼者にとっては、精神的な祈りの旅だけでなく、こうした文化的な体験もまた心に残るものでしょう。音楽や芸術、美食といった多様な魅力とともに、巡礼者たちは単に信仰を深めるだけでなく、豊かな文化と触れ合い、心身ともに癒される旅を楽しむことができるのですね。次の目的地へ向かう前に、パルマでの滞在を存分に堪能してはいかがでしょうか。
文責/アドマーニ