
旅の終着点、ローマ|ヴィア・フランチジェナ巡礼の終わりと始まり
【第二十二話(最終回)】イタリア巡礼路を辿る†~魂を彩る神聖な旅~
長い巡礼の道「ヴィア・フランチジェナ」は、ついにローマへとたどり着きます。
アルプスを越え、丘陵地帯を歩き、中世の町や静かな村々を抜けてきた旅人たちが、最終的に行き着く先――それが、この永遠の都です。
古代遺跡とテラコッタ色の街並みが重なり合う、時を越えた風景。
巡礼の果てに見える永遠の都
ローマは、巡礼者にとっての精神的な終着点であると同時に、何世紀もの歴史が幾重にも重なる都市でもあります。古代ローマ帝国の首都として栄え、その後はキリスト教信仰の中心として発展してきました。歴史的な遺構を保存しながらも、街そのものが現代の生活空間として機能している。それがローマという都市の大きな特徴です。
フォロ・ロマーノやコロッセオといった古代の遺構を横目に、石畳の道を人々が行き交い、噴水のそばでは観光客が足を止め、通り沿いのカフェからはエスプレッソの香りが漂ってきます。遺跡や教会が点在する街の中を、車やスクーターが縫うように走り、広場では観光客と地元の人が入り混じって行き交います。静かな巡礼路とは対照的なこの雑多さが、旅人に「ローマにたどり着いた」という実感を、より強く与えてくれます。静かな道を歩いてきた足に、街のざわめきが戻ってくる瞬間です。
サン・ピエトロ大聖堂の荘厳な佇まい。
歴史と現在が重なる街
こうしたローマの歴史と信仰が、最も象徴的なかたちで集約されている場所が、サン・ピエトロ大聖堂です。サン・ピエトロ大聖堂は、ヴィア・フランチジェナの終着点を象徴する存在です。この大聖堂が建てられている場所は、使徒ペテロが殉教し、埋葬されたと伝えられる地の上にあたります。4世紀、コンスタンティヌス帝によって最初の大聖堂が築かれ、現在の壮大な姿へと再建されたのは、ルネサンスからバロック期にかけてのことでした。ブラマンテ、ミケランジェロ、ベルニーニといった時代を代表する建築家や芸術家が関わり、信仰と権威、そして芸術の粋が一体となった空間が形づくられていきます。
今日でも、世界各地から集まるカトリックの聖職者や巡礼者、そして多くの観光客が、この歴史的で精神的な場所を自らの目で確かめようと、大聖堂を訪れています。
バロックの傑作が息づく大聖堂内部。
巡礼の象徴 ― サン・ピエトロ大聖堂
サン・ピエトロ大聖堂内で、ひと際人々が集まる場所があります。ミケランジェロの《ピエタ》の前です。白い大理石で彫られたこの彫刻は、巨大な聖堂のスケールとは対照的に、驚くほど内向きで、親密な空気をまとっています。
この作品は、20代の若きミケランジェロによって生み出されました。冷たい大理石で作られているのを忘れてしまうほど、リアルな表現がそこにあります。肌の下には血管がとおっているかのようですし、服のひだは風に揺らぎそうなほどやわらかいのです。マリアは劇的な悲しみではなく、静寂の中に痛みが沈み込んでいるかのような表情を浮かべています。
ミケランジェロが刻んだ永遠の母子像。
人々がこの彫刻に引き付けられるのは、その美しさ故に他なりません。しかし、その美しさを生み出しているのは、ミケランジェロがピエタ(追悼や慈しみを意味する言葉)を、教義的な厳格さの象徴ではなく、静かで人間的な愛に満ちたものとして捉えているからではないでしょうか。巡礼の終着点でこの彫刻に向き合うとき、長く壮大な旅の果てに、信仰がたどり着く場所は制度や教義ではなく、一人ひとりの胸の奥にある感情なのだと、そっと教えられるように感じられます。
祈りのドームが静かに街を見守る黄昏時。
こうしてヴィア・フランチジェナの旅は、ローマでひとつの終わりを迎えます。ローマは、訪れる人々を分け隔てなく受け入れ、街の一部として溶け込ませていきます。そうして街に溶け込んだ人々は、折り重なる歴史の一部となっていくのでしょう。巡礼者が長い道のりの末にこの街で抱いた感情もまた、そうした歴史の層のひとつなのかもしれません。終わりでありながら、同時に新たな始まりでもあるローマ。ヴィア・フランチジェナは、この街にたどり着くことで、静かにその物語を未来へと受け渡していくのです。
文責/アドマーニ
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