
イタリアの陶芸・マヨリカ焼き
カフェのテーブルや家のネームプレート、鉢植えや床のタイル、そして食器。イタリアに行かれたことのある方は、カラフルな模様が施された陶器を、どこかで目にしたことがあるのではないでしょうか。
今回は、イタリアの伝統陶芸・マヨリカ焼き(Maiolica)について、お伝えいたします。
イスラム発・マジョルカ島の伝統工芸
マヨリカ焼きは、ルネッサンス期に発祥した、イタリアの錫釉(すずゆう)陶器です。白地に、鮮やかな色合いと細やかな模様が映える、とても明るく華やかな陶芸作品です。Majolica(マジョリカ)や、マリョルカ、マヨルカとなど呼ばれることもあります。
もともと9世紀頃からイスラム圏で作られていた陶器が、13世紀以降、スペインの東方・地中海西部のバレアレス諸島最大の島であるマジョルカ島(中世イタリア語ではマヨルカ島)を経由して、ヨーロッパ全域へともたらされました。
マジョルカ島からの陶器の輸出とともに、陶芸職人の多くも、すでに陶器作りの高い技術があったシチリア島に移住し、ここからイタリア全土へと普及していきました。当初、「マヨリカ」とは、スペインからの輸入物とイタリア産のもの、両方を意味していましたが、その後徐々に、イタリア産の錫釉陶器全般を指すようになっていきました。鮮やかな彩色で、神話や歴史上の光景、その地域の伝説などが描かれたものが多く、教会の彫刻や聖書の挿絵などと同様、歴史を伝承する作品としての役割を担っていました。
マヨリカ焼きは、 フランスでは「ファイアンス焼き(Faience)」と呼ばれます。北イタリア・エミリア=ロマーニャのファエンツァ(Faenza)の街が、その由来です。イタリア全土にマヨリカ焼きが流入した後、ヨーロッパへの輸出用の作品の生産に力を入れていたのが、この地でした。ここには、世界有数の陶芸美術館である「ファエンツァ国際陶芸博物館(MIC :Museo Internazionale delle Ceramiche Faenza )」があります。
オランダとイギリスでは「デルフト陶器」、スペインが征服したブラジルでは「タラベラ焼き」として、各地で発展していきました。19世紀半ばから盛んになったイギリスの有名陶器ウェッジ・ウッドも、このマヨリカ焼きが起源とされています。
錫釉(すずゆう)陶器とは
「釉」とは、「うわぐすり」と読み、「釉薬(ゆうやく)」を指します。陶磁器の表面を覆って器を丈夫にしたり、焼き物を美しく見せたり、水分がしみ込むのを防ぐ働きがあります。数ある釉薬の中で、鉛(なまり)を主成分とする釉薬に、錫(すず)を加えて焼いたものが、錫釉陶器です。ちなみに、この錫釉。日本ではあまり使用されていません。 錫の産出が少なく、貴重品であったことが影響しているのであろうとのことです。
錫釉の最大の特徴は、白磁にも似た、美しい白地を出した焼き上がりになること。つまり、模様付けに適した土台となるということです。色とりどりの顔料がはっきりと発色され、そこに地域特有の絵やシンボルが加わることで、それぞれの土地オリジナルのものとして独自の進化を遂げました。 鮮やかな美しい色は、褪せることはなく、一生使い続ける事ができる陶器です。
美しい絵柄の数々
色鮮やかなマヨリカ焼きは、日常使いが楽しく、生活の小さな彩りとして、時代を超えて今でもイタリア人たちに愛され続けています。玄関の装飾、鍋敷きやお玉置き、カフェ(エスプレッソ)用のカップとソーサーと小さなスプーンのセットなど、どの家庭でも必ずいくつかの作品を見つけられます。
シチリア島・カルタジローネには、蹴上がりの部分がマヨリカ焼きのタイルになっている非常に美しい階段があります。下段から上段に向かって、昔から20世紀に至るまでの絵柄の変遷を見ることができます。歩いているだけで多くのマヨリカ焼きに出会える、陶芸の街です。
マヨリカ焼きには、それぞれの時代を代表する基本的な絵柄があります。他の陶芸同様、造り手によってそのスタイルは様々で、筆のタッチや微妙な色の付け方によっても全く違う表情を見せるのが、その面白さです。
お気に入りの陶器を見つけるコツは、まずはとにかくたくさんのお店に入り、自分の好みのお店やデザインのスタイルを明確にすること。伝統柄がいいのか、それとも現代風なアートがいいのか。色は寒色系?暖色系??自宅のインテリアとマッチングするものはどれだろう??などなど…。小さなものだと10ユーロ(1300円)前後での購入が可能なので、お気に入りのものをお土産用に探してみるのも、きっとイタリア旅行の楽しい時間になるでしょう。
文責/アドマーニ

2025.04.02
アブルッツォの歴史と今
「Abruzzo(アブルッツォ州)」。イタリア好きの方でも「どこだっけ?」と思われる方は多いのではないでしょうか。それもそのはず、日本で発売されているイタリアのガイドブックでは、ほとんど取り上げられることがない州だからです。 アブルッツォ州は、イタリア半島を縦断するアペニン山脈の中央部からアド...

2024.03.15
バチカン
バチカン|[Chiacchiere! Mail Magazine 04 Marzo 2021] 「バチカン」。どのような宗教を持っていようとも、あるいは特別な信仰がなかったとしても、イタリア・ローマを訪れた際に、ここを通らずとして帰る方は、なかなかいないのではないでしょうか。美しい建築物の数々...

2023.09.12
アマルフィ公国
アマルフィ公国~Chiacchiere!/Mail Magazine 30 Agosto 2023 エメラルドグリーンの海と険しい崖に囲まれた小さな海岸の街、アマルフィ。その絶景をカフェやレストランで眺めながら新鮮な海の幸を堪能し、地中海の風を感じるひとときは、訪れる人々の特別な思い出となるこ...

2021.08.18
永遠の憧れ”シエナ”
イタリアオリーブオイル~Chiacchiere!/Mail Magazine 03 Febbraio 2021 シエナへ行ったことはありますか? シエナはフィレンツェから南東に60キロ、フランス街道と呼ばれた遠くフランスからローマに通じる街道上の町として中世に息を吹き返した世界遺産の街です。...