
エミリア街道をゆく④生ハムの聖地パルマ
エミリア=ロマーニャ州を東西に走るエミリア街道沿いの町のシリーズ。最終回はその名前がついた生ハムで、世界的にも名が知られているパルマ。生ハムはイタリアの多くの地域で生産されますが、「パルマ」が生ハムのひとつのブランド名にように扱われるのには理由があります。D.O.P(保護指定原産地表示)を持つ「Prosciutto di Parma(パルマの生ハム)」を名乗るには、
• イタリアの中北部の10州の認定養豚場で9ヶ月以上をかけて育てられた約150kg以上の「パルマ豚」 を使用
• パルマ県のエミリア街道から5km以上離れた南で、西はスティローネ川、東はエンツァ川までのエリアで、標高900m以下の場所で加工
• 材料は豚の腿と塩のみ
• 熟成期間は最低12か月
などの条件をクリアしないといけません。この地方ではもともと畜産業がさかんで、良質の豚、良質な飼料、そして温度、湿度、風など生ハムを作るうえで最も適した気候により、まろやかで深みのある味わい深い生ハムができるのだそうです。
そんな生ハムで有名なパルマですが、町並みもとても素敵です。中世は自治都市として、その後、ファルネーゼ家出身のローマ教皇・パオロ三世が当時は教皇領だったパルマを分離させ、庶子に与えてパルマ公国が成立。ファルネーゼ家のもとで町の整備や文化も花開きました。一番の見どころはドゥオモ(サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂)。11世紀に着工したロマネスク建築を代表するものですが、その後も断続的に改築や改装が行われています。内部で必見は、クーポラの内側に描かれたコレッジョの「聖母被昇天」。4年の月日をかけて完成され、空間を上手く使って躍動的に描いた天井画は晩年の傑作とされています。
大聖堂を前にし右側にそびえるのが高さ35mもある8角形の洗礼堂。外観はバラ色の石づくりで、扉のある下層部の上には4層構造になっており、さらにその上にはアーチと尖塔が設けられています。いっぽう内部は16面で構成され、とりわけ設計を担当した建築家・彫刻家のアンテラーミによる12ヶ月の擬人像と冬と春の擬人像 が見事です。
そのほか、町の西側にはパルミジャーノやコレッジョなどの作品が並ぶ国立絵画館、欧州最古の劇場のひとつであるファルネーゼ劇場、1761年創設のパラティーナ図書館や、考古学博物館などから成るピロッタ宮、そしてその裏から川を越えてすぐにはドゥカーレ宮殿とその広大な庭が広がっています。ドゥカーレ宮殿は現在、国防警察の本部になっているため見学はできませんが、町観光に疲れたら市民の憩いの場所でもある公園を散歩するのも良いでしょう。
駅から旧市街もすぐ近く、見どころは複数ありつつも狭い範囲にあって観光しやすいパルマ。生ハムやパルミジャーノ・レッジャーノチーズに舌鼓を打ち、美術や建築に触れ、絵になる町並みを散策すると、半日では足りないかもしれません。ボローニャから日帰りで訪れるもよし、パルマで宿泊して前回までに紹介した東側のレッジョ・エミリア、モデナ、西側のピアチェンツァに足を延ばすも良し。エミリア街道の美食と芸術を十分に堪能してください!
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。著書に「イタリアの美しい村を歩く」、「イタリア流。世界一、人生を楽しそうに生きている人たちの流儀」など。