モンテルキ、ピエロの名画「出産の聖母」を訪ねて

前回のメルマガでご紹介した、ピエロ・デッラ・フランチェスカの故郷サンセポルクロからローカルバスで約20分、モンテルキという小さな小さな村があります。バス停のある県道から、最後はゆるやかな坂を上って10分くらい。途中に村の名前と共に「ピエロ・デッラ・フランチェスカ 出産の聖母」と書かれた標識があるほど、この作品があることで知られている村です。ここはギリシャ神話に出てくるエルコレによって建設された、という伝説が残っていることから、モンテ・エルコレ(=エルコレ山)、そして現在はモンテルキという名前になったと言われています。村を囲む城塞は中世時代のもので、1917年にあった大地震にも持ちこたえて村が残ったそうです。

以前に中学校があった建物を改装し、修復が終わったこの作品だけを展示するための博物館、その名も「出産の聖母博物館」をオープンしたのは1993年のこと。薄暗いたったひとつの展示室の中に、空調整備の行き届いたケースに入った「出産の聖母」が浮かび上がります。

「出産の聖母」は、1450~65年頃の作品とされていますが、1459年に母の故郷であるこの地をピエロが訪れた際に描かれたのでは?と推測されています。このフレスコ画は旧市街外のサンタ・マリア・ディ・モメンターナ礼拝堂に描かれたものですが、1785年、そこに市の墓地を建設するに際して移動され、1911年まではその存在が知られていなかったという逸話が残っています。その後、いったんサンセポルクロに移動したりしながらも、現在は元々作品のあったモンテルキの、現在の場所に置かれることになりました。 私が最後に訪れた時も作品解説のビデオルーム、作品の部屋、ワークショップなどが行われる部屋、ブックショップがありますが、近郊の村・アンギアーリの老舗生地メーカー・ブサッティがスポンサーとなり展示ルート整備のための内部改装プロジェクトが進んでいるそうです。

博物館を出たら、ピンクの建物のアーチから旧市街へ入りましょう。訪れる方の大半は「出産の聖母」目当てかと思いますが、ピンクの門を入ってすぐ右手にある「量りの博物館」は出産の聖母博物館との共通パスもあり、なかなか面白いのでおススメです。

ヨーロッパでも指折りのこの量りの博物館は、量りの収集家であるヴェリオ・オルトラーニのコレクションで、アンティーク市や古物商で買い集めた量りは100以上、一番古いものは、なんと1400年代のものだそうです。最初の間は、人間の量り。歴代の赤ちゃん用の体重計と、大人が立って量る体重計は自分で鏡で見るようになってます。左から2番目の体重計は、私が次男の時に保健所から借りたものと同型で、これを見た時、イタリアの古いものを大切に使う文化を実感しました。それから薬草の量りや郵便局の小包用量り、毛糸の量り、イタリアらしいワインの樽の量りも。他にも小さな小さな懐中量りに、組み立て式で箱に入った量り、そしてこれまたイタリアらしい、パルミッジャーノ・レッジャーノ用の量りまで。 こんな量りが!というだけでも興味深いですが、その鋳造の細かさに芸術を感じたり、レトロなロゴや錆に萌えてしまったり、いろんなツボにハマる面白い博物館です。

この2つの博物館以外は特に見るものがないモンテルキですが、ピエロファンには絶対にはずせない名画を観賞するだけでも行く価値があります。アレッツォからサンセポルクロへ行く直通バスからは一回乗り換えになりますが、うまくバスを乗り継げばフィレンツェからでも日帰りでこの2つの村に行くことも可能。観光客がほとんどいないのどかな村の散策も、観光都市を周る旅の良いリフレッシュになるでしょう。

日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。著書に「イタリアの美しい村を歩く」、「イタリア流。世界一、人生を楽しそうに生きている人たちの流儀」など。