アレッツォ深堀り①オスカー受賞映画の舞台

イタリアの定番観光都市はもちろん素敵だけれど、近年はオーバーツーリズムが加速し、どこもかしこも人・人・人! おかげで宿泊施設や飲食店の価格がどんどん上がり、その町に暮らす人々の営みが見えることはほとんどありません。そこでイタリア来訪2回目以降、定番観光都市はもう行った方に強くお勧めしたいのは、周辺の中都市です。それなりに観光的要素もありながらまだ旧市街にも地元民の生活感があり、宿泊施設や飲食店もさまざまなタイプがあって価格も抑えられていること。スーパーやお店も充実しているので暮らすような滞在も可能なこと。また大きな鉄道駅やバスターミナルがあってそこをにあちこちに足を伸ばせることなど、良い所づくしなのです。トスカーナではフィレンツェ以外の中都市で、個人的に気に入っているのがアレッツォ。フィレンツェからは直通電車で1時間強、ローマからも直通電車があって大都市からのアクセスも簡単です。

アレッツォはトスカーナ州11県ある中のひとつ、アレッツォ県の県庁所在地で人口は約9万6000人。日本のイタリア旅行ガイドに掲載されることは多くないですが、有名なものがたくさんあります。そのうちのひとつが外国語映画賞や主演男優賞、作曲賞のオスカーを受賞した1997年の映画「La vita è bella(ライフ・イズ・ビューティフル)」です。

映画の舞台は1939年、トスカーナの田舎町に引っ越してきたユダヤ系イタリア人グイードが小学校教師のドーラに一目ぼれし、猛烈なアタックのうえに結婚。息子も生まれて幸せな日々を送っていたころに、ドイツ軍によって家族ともどもユダヤ人強制収容所に送られるが、グイードは息子を守るため壮大な嘘をつく・・・というストーリー。この「トスカーナの田舎町」がアレッツォで、作品の前半のほとんどがアレッツォ旧市街で撮影されました。

その撮影が行われた場所には、そのシーンの写真とセリフが書かれた看板が設置されています。写真はグランデ広場の一角、ロッジアを正面に見て右側にあるピアッジャ・サン・マルティーノ通り。ここではグイードが友人と歩いたり、またドーラと息子とととも自転車で下ってくるシーンでおなじみの場所。下った先は、アレッツォの中心的な広場、グランデ広場です。

町の高みにあるドゥオモの階段では、雨の日にドーラの靴が汚れないように、グイードが赤じゅうたんを敷いたところ。その後に2人が雨宿りするのが、下にあるリベルタ広場の一角、アレッツォ県庁の玄関ポーチです。これらの他にも、オペラ鑑賞のシーンはペトラルカ劇場、「ユダヤ人と犬はお断り」と張り紙があったのは老舗カフェ・ディ・コスタンティ、グイードが営む本屋があったのがボルグント通り15番地、ドーラの勤める小学校前はばバディア広場、などなど。

観光しながら偶然にこれらの場所を通るのもよし、地図であらかじめ場所をチェックしてから映画の撮影場所をめぐってもよし。映画を見た人はそのシーンの光景をよみがえらせ、見ていない人には映画への興味を奮い立たせてくれるこれらの看板たち。いや、映画をすでに見た人も、アレッツォを訪れるとまた映画を見たくなるかもしれませんね。

日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。著書に「イタリアの美しい村を歩く」、「イタリア流。世界一、人生を楽しそうに生きている人たちの流儀」など。