
マッキネッタ・ダ・カッフェ
イタリア人のカッフェ=エスプレッソへの愛はみなさんもご存じの通り。朝ごはんはカッフェまたはそれを使ったカッフェ・ラッテやカップッチーノを飲み、仕事の合間や食後など、1日に数回のむ人もいるほどです。現在はカプセルを使用したエスプレッソ・マシーンも普及してきましたが、イタリアどこの家庭にもあるのはマッキネッタ・ダ・カッフェ=小さなカッフェ・マシーン、またはモカと呼ばれる器具。モカという名前は、カッフェ特にアラビカ種の産地であるイエメンの紅海沿いの港町の名前で、そこから世界で初めてコーヒー豆が輸出されたことから命名されたそう。この器具は1933年にアルフォンソ・ビアレッティによって発明されて今や全世界に普及、スペインやブラジルなどでは「カフェテリア・イタリアーナ(イタリアのカフェテリア)」の名で呼ばれています。機能だけでなくイタリアの工業デザインの代名詞としても有名で、ミラノのトリエンナーレ・デザイン・ミュージアムやニューヨークのMOMAにも展示されているほど。六角形の形状は、塗れた手でも滑らずに上下パーツを分離できるようにと考えられたものですが、現在は円柱型などの別形状のマッキネッタも存在します。
マッキネッタ・ダ・カッフェは、大きく分けて3つのパーツから成ります。水を入れる下の部分、そこに差し込んでカッフェの粉を入れるバスケット、そして抽出したカッフェを受けて注ぐ上の部分。水と粉を入れて上下部分を締めて火にかけると、沸騰した湯がバスケット下の管から上昇して粉を通り、上部パーツ下に取り付けられたフィルターを通してエスプレッソが溜まる仕掛けです。イタリア人の朝は、このマッキネッタに水とカッフェの粉を入れて火にかけてエスプレッソを作ることから始まります。そして休日のランチの後には「カッフェいる人?」と誰かが第一声をかけ、人数分のエスプレッソを作るのもおなじみの光景です。
マッキネッタには、1人用から2、3、6、12人用までのサイズ違いがあります。家族の人数や来客の場合も考慮して、各家庭には2~3種類のサイズ違いのマッキネッタがそろっていることがほとんど。上の写真は夫の祖母宅のもので1人用と3人用、ちなみに我が家ではたっぷり目に飲みたい夫婦用に3人用と、来客時のための6人用の2種類を持っています。
面白いのは、海外の滞在先にキッチンがある場合、イタリア人はほぼ全員がこのマッキネッタとカッフェの粉を持参すること。国内であれば家庭や滞在アパートにも必ずマッキネッタかエスプレッソ・マシーンがありますが、海外で常備されてることはかなり珍しいからです。海外でもアパート滞在が多い我が家も例にもれず、必ずマッキネッタを持っていきます。しかし、今年の夏は意外なところに盲点がありました。
バカンスは同じトスカーナ州の海沿いのキャンプ場だったのですが、ここでは一エリアをドイツ人の団体が貸切っており、グランピング的テントにした一部を AirBnB を通して一般人に貸しているものでした。食器用洗剤やスポンジなどテントにあるものを確認している際、念のためにマキネッタもあるか確認すると「モカはあります!」との返事だったので、粉だけを持っていきました。ドイツメーカーだけれどちゃんとしたマッキネッタがあり、早速エスプレッソを作ろうとすると……コンロの台にひっかからず、ストンと落ちてしまったのです。ちなみに、イタリアのコンロなら小さい火の部分はマッキネッタが置けるようになっているのですが、どうやらガス台もドイツ製のものだったよう。なんとか置ける部分を見つけて火にかけましたが、4分の1しか火がかからないので時間も4倍かかってしまいました。美味しいカッフェが飲めたので、まぁ良しと致しましょう。
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。著書に「イタリアの美しい村を歩く」、「イタリア流。世界一、人生を楽しそうに生きている人たちの流儀」など。