Business Diary

イタリア買付け旅行記(2010年夏 6月27日〜7月11日 15日間の旅)

◆ 6月29日 「マッシモ・マンチーニ氏」

われわれを出迎えてくれたパスタ・メーカー「マンチーニ」社の
経営者マッシモ・マンチーニは、41歳。
祖父の代から小麦畑をここ大自然のマルケの山中で営んでいました。
父親の代になってその規模を拡大し、小麦以外に豆類をも耕作して
農産物加工会社に供給していたそうです。

三代目の彼は大学で農業を学び、実家の小麦作りを改善します。
何度も何度も品種改良を重ね、パスタに適した独自の小麦作りに
執念を燃やします。
その結果として、自分自身とても満足の行くデュラム小麦を作り上げ、
配合割合までこだわって出来上がったのが、今回のパスタ。
マンチーニのパスタには、三種類のデュラム小麦がブレンドされます。

すでにそのパスタの品質、テイストはイタリア国内でも
グルメ中心に話題になっており、数年前から各種の料理雑誌に
取り上げられて、絶賛を浴びているのです。

そうは言っても、日本にいる私達がそのような情報に触れる機会は
なかなか得ることはできません。
このような小さな作り手は大勢存在し、その多くはイタリア国内又は
米国や近隣のヨーロッパ諸国への輸出を少々する程度。
今回のように極東から農場までわざわざやってきて試食・・・
などというケースは彼にとっても歓迎するべきものだったようです。

穏やかで、終始親切なマッシモが工場内をまず案内してくれました。

施設は大規模の大手パスタ企業とは違い、こぢんまりとしていますが
目を引いたのは、一台の巨大なパスタ・マシンと貯蔵タンク。
彼の農場からの小麦がすべて収穫後は貯蔵タンクに収められ、
徹底した温度管理の元で少しずつ、脱穀・粉砕を待っています。

製造のたびに原料となるデュラム小麦を挽くわけですが、
その精米歩合ならぬ製粉割合は55%。
かなり良質のフスマ(米ぬかと同意義で小麦の挽いた後のカス)が
得られるほど、徹底して製粉されるようです。
このためか、ゆでできあがったパスタはやや白っぽく見えます。

吟味された水だけを加えてこの硬質小麦を練り上げ、
独自のブロンズ金具によって整形されるまでオートメーション化
されています。
ただし、マシンはこの一台だけ。
常時、練り具合を監視しながら品質にこだわります。

パスタ作りにおけるポイントは、整形金具と乾燥工程です。
通常、パスタを整形する金具には大きく二種類が存在します。
テフロンとブロンズの二種類です。
練り上げられた生地を、スパゲッティやらペンネやらいろいろな
形に整形するドラム型をした金物です。

前者(テフロン)を使ってパスタを整形すると、
表面がツルツル・スベスベした状態となります。
日本でもおなじみの「Barilla(バリッラ)」が主にそれ。
後者(ブロンズ)を使うと、表面にざらざらとした傷跡が残ります。
いわゆる「粉を吹いている」ような状態で白っぽくなるのです。
代表選手は「De Ceco(ディ・チェコ)」でしょう。

ブロンズ口金を使った場合は作業時間もやや増えるため、
大量生産には向きません。いわば、前近代的な方法といえます。
パスタ製造の歴史は意外とまだ浅く、
今のように大量にパスタが消費されるようになってからは
その需要に答えられるように、製造時間の短縮が図られたのです。

テフロン加工されたパスタはツルツルっとしているので
普段のおなじみの食感だと思います。
一方のブロンズ加工のパスタはモチモチっとしていて、
ざらついた表面にソースがよく絡まりやすい、という性質。
ただし、ゆでる際にのびやすかったりするので注意が必要です。

どちらの食感が好きかは、好みによりますが
筆者は断然、後者のブロンズ加工に止めを刺します。
モチモチした食感といい、バキバキとしていない硬さがいいです。

もうひとつのポイントは、乾燥時間と温度です。
かつて、パスタの故郷であるナポリ近郊のグラニャーノでは
「海からの風で小麦を作り、ヴェスヴィオ山の風で乾燥させよ」
と言い伝えがあったそうです。
まさにここ、マルケの山中も同様にアドリア海から比較的近く、
なだらかに海に向かう山を背負った地形になります。

乾燥の際には、山から吹く風でゆっくりと丁寧に乾燥せよ。
という意味だと思います。乾燥はかつて、屋外だったのでしょう。
真夏の気温は40度を越えますが、その温度で80-90時間もかけて
乾燥させるのが、ベストなのだそうです。

パスタ・マンチーニの乾燥はまさに、これ。
衛生状態の観点から、乾燥工程は屋内になりますが、
見事にその状態を再現させているのです。
気温(室温)40度、80-90時間ものゆっくりとした乾燥時間。
大手企業だとその半分程度の乾燥時間だそうです。
理由は、大量生産をしなければならないから(かも)。

このようにまず自社で育てた小麦・カット方法・乾燥温度と時間
まで徹底的にこだわっていることがよくわかります。
彼は常に、完成品の持つ独特の「香り」にこだわります。
マッシモはふたを開け「どぉ?香りを感じるだろう?」と見せます。
彼は、パスタがまるでわが子のように愛おしいのでしょうね。
確かに、小麦独特の香りがたっぷり漂ってきました。

そのこだわりのパスタを、場所を変えて近くのトラットリアで
試食しよう。ということになりました。
車で10分ほどの村の中心部。目指すトラットリアに到着です。
ちょうど2時頃で、そろそろ昼食時間が終わりそうな頃でしたが、
店は満席です。近所の人が大勢、詰め掛ける店なんですね。

マッシモが店のオーナーに、自慢のパスタを手渡して
調理方法を伝えます。我々は通された大きなテーブルについて
まずは白ワインで乾杯。
15分もしないうちに、いきなり茹で上がったスパゲッティが
そのままの状態でお皿に盛られ、我々の目の前にやってきました。

マッシモ「まず、そのままで食べてみてください。」
私は言われたとおり、食感を試してみます。
ちょうどよい感じのアルデンテ。モッチリしています。
よくある「芯」が硬くてバキバキした感じはなく、ちょうどよい。

マッシモ「次に、オリーブオイルだけかけてみてください。」
地元産のエクストラ・バージン・オリーブオイルをたっぷり。
フレッシュなオリーブの香りが先ほどのパスタに絡みます。
味付けは一切ないのですが、先ほどよりもおいしさが増します。

マッシモ「最後に、パルミジャーノチーズをかけてください。」
すりおろしたパルミジャーノ・チーズが持つ微妙な塩加減が加わり、
さらに、ますますおいしくなっていきます。
そして、不思議なことにこうしてスパゲッティが少しずつ冷める
状態であっても、シコシコとした食感と小麦自体が持つ「甘み」が
最後まできちんと主張してくるのです。

こんなにも、小麦の味そしてモチモチした食感をストレートに
味わったのは、今までにはない経験です。
ものすごくシンプルなのに、食べた後またいただきたくなる。
そんな魔力(?)を持っているスパゲッティです。

 

「あぁ・・・これが、グルメをうならせた理由なのか。。。」

 

パスタは、たいていソースで味付けされますから、
そもそもパスタ本来の味をどうこう、というよりも
むしろソースの出来具合のほうを重視しがちです。
そして、ソースの出来具合次第で、最後のほうは飽きることも。
これは最後のほうになって冷めかかってもなお、美味なのです。
なぜか?それは、パスタ自体が美味しいからです。

 

「やられた・・・・。」と思いました。ノックダウンです。

 

オリーブオイルとパルミジャーノだけ。
シンプルな味がかえって、このパスタの味を知らせてくれました。
それはまるで、蕎麦通が漬け汁をほんの少しだけからめて
手打ちの蕎麦そのものが放つ味を楽しむのに近いものがあります。

人生を半世紀生きてきて、ようやく見つかったお気に入りパスタ。
そう言えるだけのものがある、こだわりパスタでした。

※帰国後に他社メーカーのパスタを含めて試食会を行いました。
さらに納得を得られたことを報告しておきます。※

 
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